透析中の低血圧と下肢挙上を1から学ぼう

透析に関する低血圧とは??

K/DOQIKidney/Dialysis Outcomes Quality Initiativeガイドラインでは、透析中の急激な血圧低下とは、透析中に収縮機血圧が20mmHg以上あるいは症状を伴って平均血圧が10mmHg以上低下する場合と定義している。

 

透析関連低血圧は以下の3つに分けられる。

 

  1. 透析低血圧:Intradialytic hypotenstion(IDH)
  2. 起立性低血圧:Orthostatics hypotension
  3. 常時低血圧:Chronic sustained hypotension

 

透析中の低血圧の原因とは?

透析中の低血圧は、透析液と血液の間の浸透圧の変動や、透析による急激な血液の除去、心機能の不全などが主な原因として挙げられます。これらの要因が組み合わさることで、透析中や透析後に血圧が下がり、めまいや吐き気、失神などの症状が現れることがあります。

 

透析中の低血圧の発生メカニズム

  1. 急激な血容量の減少
    透析中に体内の余分な水分を除去することで、血液容量が急激に減少することが低血圧の主要な原因です。

  2. 心機能の低下
    一部の患者では、透析中に心機能が低下することが報告されており、これが低血圧の原因となることがあります。

  3. 透析液の温度
    体温よりも高い透析液を使用すると、血管が拡張して低血圧が引き起こされる可能性があります。

  4. 透析液中のカルシウム濃度
    低カルシウムの透析液を使用すると、血管の収縮能力が低下し、低血圧が発生するリスクが増加します。

  5. 生物的適合性(Bio-compatibility)

    透析膜や透析液の成分が患者の血液と適合しない場合、アナフィラクシーや炎症反応を引き起こすことがあり、これが低血圧を引き起こす可能性があります。

  6. 低栄養(低アルブミン血症)
    Plasma refilling rateを低下させて、血圧維持が困難になる。

  7. その他の要因

    抗高血圧薬の使用、食事の摂取、透析前の低血圧、老齢なども、透析中の低血圧のリスクを増加させる要因として考えられます。

透析患者の血圧と生命予後

透析前血圧140~149mmHgを基準とした場合、透析後の収縮期血圧が低すぎる及び高すぎると死亡率が上昇することが報告されている(Zager PG:Kidney Int 1998;54:561-569)

透析後の収縮期血圧100mmHg未満:心血管死亡率が2.8倍

透析後の収縮期血圧180mmHg以上:心血管死亡率が2.0倍

下肢挙上の効果とは?

下肢挙上は、低血圧が発生した際に患者の足を持ち上げることにより、下肢にたまった血液を心臓や中心部へと戻すことを目的としています。これにより、心臓への血液の還流が一時的に増加し、血圧が上昇することが期待されます。この方法は、低血圧の対応策として比較的シンプルで即座に効果が期待されるため、実践されることがあります。

下肢挙上の適切な方法と注意点

下肢挙上を行う際は、足を約30度から45度の角度で挙上し、しばらくの間その状態を保つことが推奨されます。ただし、患者さんの状態や持病、身体の調子によっては、下肢挙上が推奨されないこともあります。例えば、関節炎や他の関節の問題を抱えている患者には、この方法が適していない場合があります。

そのため、常に医師や看護師と連携し、患者さんの状態を確認しながら適切な対応を取ることが大切です。また、下肢挙上は、低血圧の一時的な対策として効果的であることが期待されるものの、根本的な原因に対する治療や予防策としての役割は限定的です。

 

 

実践方法

  1. 低血圧の兆候や症状が現れた際に、患者の両足を30度から45度の角度で挙上します。
  2. 下肢は柔らかいクッションや枕を使用して、支えられることが推奨されます。
  3. 血圧の回復を確認するまでの間、この状態を維持します。
  4. 必要に応じて、透析の速度を減少させたり、透析液の成分調整を行うことも考慮する

まとめ

透析中の低血圧は、多くの患者さんが経験する可能性がある合併症です。下肢挙上は、シンプルで即座に効果が現れる対応策として有効ですが、それぞれの患者さんの状態に応じて適切に行うことが重要です。透析治療を受けている患者さんやそのご家族は、透析中の体調変化に注意し、必要に応じて医療スタッフとの連携を図りながら、安全で効果的な治療を受けることが大切です。